インタビュ


+ 第四弾 + (実施日:2017年4月)

夜明け前のアズレ」のレビューを書くに当たり、製作者の祟月様にお話を伺ってみました。
これまでのインタビュとは異なり「夜明け前のアズレ」のお話一色ですので、必ず作品プレイ後にご覧ください
また、関連作品である「朝焼けのシアン/夕焼けのマゼンタ」のネタバレを含みます。

今回はリアルタイムのチャットではなく
メールのようなやりとりを何度かさせていただいたものを編集してまとめています。

― Information ―

祟月(近衛頼忠)様 (twitter)

立ち絵の無い、背景とBGMで彩られるノベルゲームを製作されています。 「朝焼けのシアン/夕焼けのマゼンタ」を2015年1月に公開して以降、 短編を中心に20作近くをリリース。美しく、またどこか感慨深い作風が特徴的です。
ナレーションやキャラクターボイスのお仕事、ゲーム実況などもされています。

それでは参りましょう。


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*「夜明け前のアズレ」登場人物について

【祟月様】
登場人物に関して軽く書いておきますね。

今作登場するのは、名前だけのキャラクターも含めて東、加藤、澤渡、ピアニスト、日野の五名になってます。

一応、加藤と日野に関しては「朝焼けのシアン」の元作品である「朝焼けのブルー」のメインキャラ、加藤とちづから着想を得ています。と言っても、ほとんど雰囲気を拝借しているだけなので読めば全く別物のキャラクターなんだなってなんとなくわかると思います。
東は朝焼けのシアンに登場させたオリジナルキャラクターです。個人的に気に入った名前のキャラクターです。名前が同じで性格も設定も違うみたいなキャラクターが別作品(まだ公開していませんが)で登場したりします。

ピアニストは、「海底の夜葬曲」という作品の主人公です。度々登場しています。

澤渡は、今作の新規オリジナルキャラクターですね。加藤とも小山(ちょくちょく出てくるオリジナルキャラクター)とも違った感じの男性を出したくて出しました。




*内容全般について


Q.登場人物やシナリオは、モデルとなった人が居たりご自身の経験が反映されていたりするのでしょうか。
  あるいは見聞きしたり調べたりしたことが中心なのでしょうか。

【祟月様】
基本的に、どの登場人物にもモデルは居ません。強いて言うなら、自分自身の中の側面という感じですかね。
シナリオも基本的にモデルや下敷きにしているものは、今作に関しては何もないです。入れたい設定だったり、入れたい思想、入れたいフレーズややりたい展開を自由に並べて作ったという感じですね。

経験に関してですが、直接的に作品で扱っているような経験はあまりないです。勿論、死にたいなぁって思ったこともありますし、いろいろ悩んだこともなくはないので、そう言った部分は多少反映されてるかもしれないですが、自殺して失敗した!とかそういう経験はないですね。喫茶店経営もしてませんし、ピアノも弾けません;;

基本的に、どの作品もそうですが、瞬間の思い付きだったり、何か作品(映画や小説)を見ていて思ったことなどを膨らませて作品にしていることが多いですね。リアル寄りの作品が多めですが、基本的には想像でつくっています。

【倉下】
ピアノや喫茶店経営の経験が無くても、とても太い芯が各作品に通っていて、それが祟月さんの持つ経験や哲学なのかなと思いました。そしてそれが作品をリアリティのあるものにしているのかな、と。

ついでに物理学がお得意だったりしませんか。作品の綺麗さが、真円球が描く放物線のよう(?)です。自然科学の教養がある方だというのが作中や日頃の言葉の中にも垣間見えます。

死にたいと思った経験はやはりあるのですね;特に高校生くらいのときは悩める男子をよく見たものです。自分自身もとんだメンヘラ野郎でした;
逆に大切な人や身近な人を失った経験というのはあるのでしょうか。

【祟月様】
そうですね、物理学は専門的に勉強させていただいております。基本的に学問全般好きで、興味はあるので、いろんなものが総合的に反映されてるのかもしれないです。

大切な人を亡くした経験というのは、あまり具体的には無いですね。まったくないわけではないですが、「ものすごく心に響く」「思い出に残っている」というようなものは特にないですね。恐らくそう言った部分も何らかの作品を見て思ったことや想像、思考によるところが大きいかと思います。

【倉下】
やはり教養の深い方でいらっしゃいましたか。
実経験ではなく他の作品の影響を受けて書かれた部分もしっかりしてました。沢山の作品に触れられ、その上で自分なりに消化されているからなのだろうと想像します。




*作品のテーマについて


Q.東の設定を扱おうとした経緯がお伺いできると嬉しいです。

【祟月様】
今回の東の設定は、以前から扱いたかった設定なので個人的にも思い入れがあったりしますね、
真面目な部分でもネタな部分でも……。

性に関すること、ホモだったりクィアだったりバイだったりレズだったり同性愛も異性愛も……、逆に加藤みたいに恋愛に興味を持てないというものも、どれも扱ってみたかったんですよね。
自分自身も割とどの気もあるというか、一応ノンケ寄りのバイというような立ち位置でいますが、他のセクシャリティの人たちの気持ちや思想にも、なんとなく思うところがあるという感じですね。
つまるところ、自分らしさを憂うことなく生きていくことの良さと、他人の自分らしさに対してどうこう言わないで受け入れていくことが大事なんじゃない?みたいなことが言いたかったというところはありますね。

【倉下】
なるほど…そうなんですね。いやぁ…何といいますか、紳士ですね。

【祟月様】
あと、若干ネタな部分で行くと、東は明らかに男性キャラとして朝焼けのシアンで登場していたんですが、実は女だったら面白いんじゃない?などというストーリー構成上の都合も多少あります。
それと、男だと思ったら実は女だった!的なキャラクターが昔から好きというのも多少あるかもしれません。

【倉下】
印象がちょっと違うと思ったらそういうことだったのですね!

【祟月様】
そうですね。でも、一応しっかりとシアンにつながるようにできたかなと、自分では考えています。

【倉下】
それから、
> 性に関すること…(中略)…、どれも扱ってみたかったんですよね。
東のインパクトが強烈でしたが加藤も少し変わっていますもんね。澤渡さんについては後書きまで気づきませんでした;

【祟月様】
澤渡さんはホモですね。多分、キャラクターとしては東や加藤のほうが浮いた存在に感じられると思いますが、澤渡さんはかなりやばい奴なので、その辺は何度か読んでみるといろいろわかってくると思います。

【倉下】
は、それはぜひ一度じっくり読み返してみたいです。
それから祟月さんもまた少し独特の思想をお持ちなのですね。
「自分らしさを憂うことなく生きていく」「他人の自分らしさにどうこう言わないで受け入れていく」仰る通り大事だと思います。自分は自己主張ばかりで後者に気づいたのは随分遅かったんのですが;

東の一人称「私」と「俺」の使い分けはどういう意図なのでしょう。相手や話のノリで一人称が変わるならわかるのですが…。

【祟月様】
私と俺の使い分けは、基本的に俺(男性的な東、東らしい東)と私(女性である社会的な東、違和感を感じている東)との対比のために意図的に分けて記述しました。後半で、私との決別を効果的にしたかったとという思惑もあります。
作者の私自身、男ですが、一人称は私をメインで使っていて、たまに俺という感じですの人間です。本編中では一応性別的な部分での区別が主になっていますが、他の部分も重要って感じです。私的と社会的の差とか、俺に比べて私という方が堅苦しさがあるとか、いろいろなことを考えてやっています。

【倉下】
あとは、東が運命に身を任せて夜の海に入る前の部分について…死にたいという気持ちが揺らぐとか、死にたかった時の感覚が正しい物なのか不安になるというのは自分でも経験がありました。でも感覚には波があって、時には「やっぱ死にたい」となったりするので後々そうなるとよく理解した上で不安はあっても思い切るのも悪くないですね。

【祟月様】
あれは確かにそうですね。
これの後の話(朝焼けのシアン)での東君を見ればわかると思うんですけど、言われなければ完全に男性キャラとして読めてしまうし、自殺に対して、ものすごい嫌悪感を示しています。
東がこういう人間になるということが確定していたので、そのための布石でもあったりします。
死にたかった東が、迷い、悩み、最終的に朝焼けのシアンでの東になる。
迷いを捨てて、どちらかになる それがここの重要な意味ですね。



Q.澤渡さんについて詳しく教えてください。

【倉下】
(上記を踏まえてリプレイして)
澤渡さんが東のことをよくわかるのは澤渡さんが東と同じ立場(加藤が好き)だから?ですとか、東に「いいんじゃない?」と言うのが自分(澤渡)と東が重なるからなのではないかと思えてきました。後半「この人(澤渡さん)は、きっと俺以上に今の俺の気持ちをわかっている。」にもつながってきますね。

【祟月様】
澤渡に関してはその通りですね。彼もいわゆる性的少数派の一人なので、抱えてるものとしては、ほかの人よりも東に近いという部分があります。

【倉下】
澤渡さんが流星について語っているのがもはや流星(星・宇宙)=加藤 にしか聞こえてきません;あとは手が届かないから魅力的、とかもですね。

でも「人の心も同じ」「宇宙と同じくらい遠い」と言うのは加藤のセリフなんですね、澤渡さんが「加藤は宇宙と同じくらい遠い」というのではなく(その意味もあるのかもしれませんが)。

【祟月様】
宇宙のくだりは、実は、この作品と関係なくこのくだりをどこかの作品で使いたいなぁ、と思っていたものをベースに書き始めたものです。 ですが、倉下さんのように受け止めていただけたならとても嬉しいです。

もちろん、この作品で、あのキャラクターたちがこの話をするから意味があるという部分は多々ありますし、狙って作っています。

あと、加藤のセリフについては、基本的に、加藤は人間味があまりない存在、澤渡は人間味がある存在、みたいな対比を少し考えていたので、そういった部分が反映されているかもしれません。

【倉下】
澤渡「冷めるまで待つのも悪くない」というセリフも、加藤への想いが?だったりするのでしょうか…。

【祟月様】
そうですね、自分自身の気持ちが冷めるまで待つというのもありますが、同時に、加藤君が振り向いてくれるまで待つという意味が込められてます。冷めたコーヒーが好きな澤渡なので、自分の好きなもの=加藤 を待っているという風にとらえていただければうれしいです。

ここも、倉下さんの認識してくださったものと、いま私が言ったもの、その両方が掛けてある感じですね。



*その他の内容について


Q.喫茶店と(夕焼けのマゼンダに出てくる)病院から見える海は同じ海なのでしょうか?

【祟月様】
喫茶店と病院から見える海は同じ海です。ちょっと無理やり感はありますが一応文章の中でもつじつまが合うように努力はしています。

【倉下】
アズレでも夕焼け出てきてましたね;朝日も夕日も見える=岬のようなところの喫茶店ということで解釈してます。

【祟月様】
地形に関することは自由に想像していただけたら幸いです。いろいろ物理的におかしいだろ!ってところがないわけではないので、その辺はご都合主義でお願いします。




* システム・演出について


【倉下】
とにかく、とても”美しい”作品でした。

「世界に認められたいわけじゃない、世間を認めさせたいわけじゃない。でも生き辛いのはやっぱり嫌なんだ」とか(他にも似たようなのあるかも)、詩のようで良いです、テン、テン、トン…みたいなリズム感があって。
これに限りませんが、やはり文全体の綺麗さを気にかけられていたというのがよくわかります。

【祟月様】
文章に関しては、声に出して読んだときの音楽性と全体の綺麗さを結構気にかけているので、綺麗だと思っていただけていたなら嬉しいです。

リズム感だったり、お洒落さだったり、伏線だったり、そういったレトリックはかなり気を使っています。
前に話したように基本的に、私の作品は想像からの創作がメインなので、そういったこと(レトリック)が大きな意味を持っいますね。



Q.時々改行が読みづらいタイミングで入ることがあるのは少々気になっていました;

【祟月様】
改ページは自分で編集できますが、基本的に改行は編集していないというのが実情です。文章を切れるタイミング(句読点)などが分の後半にあり、一行として十分な場所にある場合は改行の編集を行うのですが、それ以外はわざわざやっていません。

【倉下】
改行は、実は自作品では必要な箇所全部に改行タグを入れたのですが途中までやって投げ出せなくなって大変でした;手間と効果を考えると妥協(?)するというのもわかります。



Q.バックログが見れない・スキップができないのはツールの製作でしょうか、意図的にそうされているのでしょうか。あまり不便は感じませんがたまに使いたくなります。

【祟月様】
スキップは明確にはできませんがEnterキーを長押しすると早飛ばしが可能で、一応それがスキップという扱いです。バックログはあります(右クリックメニュー)。ちなみに、私が公開しているすべての作品に両方ともあります。



Q.各作品で容量が大きめですが主に何が占めているのでしょうか。今の回線は速いのでさほど気になりませんが…興味本位ですみません;

【祟月様】
今作は特にだと思いますが画像ファイルが容量を大きくとっていると思います。かなり枚数もありますし、解像度もできる限り上げているので。

【倉下】
写真は800x600pxで表示されるのに妙にキレイなのがずっと不思議でした。大きい写真を縮小して表示しているのでしょうか、それとも800x600pxで保存しているけどあまり圧縮していない(いっそjpgでなくpng形式だとか)なのでしょうか。
錯覚かもしれませんがフレームとフォントもきれいに見えます。

【祟月様】
画像はpng形式ですね。
画像フォント枠ともにきれいだと思っていただけたならとても嬉しく思います。



Q.話の終わりに音楽が割とブツっと切れてしまうのは意図的なのでしょうか(フェードアウトでなく)。

【祟月様】
本当はフェードしたいのですが、その編集方法がわからないのでこういう風になっています。ゲームのプログラムのほうで何とかしないといけないのですが、あまりわからなくて。



Q.「Harenosora.otf」「はれのそら明朝.ttf」両方入っていますが片方でも良かったりします…か…?叶うなら、フォントは作品に埋め込めれば再配布に関する心配も無くて良いですよね。

【祟月様】
フォントに関しては今回、元ファイルがHarenosora.otfになっています。製作ツールであるウルフエディタはttfファイルを自動読み込みしてくれるということらしいので拡張子を無理矢理変更したものがはれのそら明朝.ttfになっていて、それを同梱しました。基本的には、自動読み込みがうまくいかずフォントがうまく反映されないという場合のために元ファイルを添えたという感じです。
基本的に編集の段階でフォントを選択していますが、ファイル内に埋め込むことはできず、上記したように実行ファイル内にオリジナルデータのttf版を入れておかなくては反映されないので、このツールでユーザーもフォントの演出を楽しんでいただくためには仕方のないことになってしまっています。




*おわりに


Q.結びとして、ご覧の皆様に向けて一言お願いします。

【祟月様】
今回は、倉下さんに様々な質問をいただき、作品に関していろいろな話が出来ました。
もちろん、まだまだ力不足な部分は多々ありますが、これからも少しでも「いいな」と思っていただける作品を作っていけたらと思っています。
また、ここで話したこと以外にも「仕込んでいるネタ」「掛けている部分」「込めたメッセージ」などいろいろありますので、
皆さんの手で何度も読み返して楽しんでいただけたら、作者としてこれ以上嬉しいことはありません。

話したがりな作者ですが、これからも私の作品で何か感じていただけたら幸いです。
もう少し世界観を変えた作品なんかも出そうかなと思っていたりします。

それでは、改めて、ありがとうございました。



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今回のインタビュは以上になります。内容からシステム面まで沢山の興味深いお話を聞けてとても満足です。
祟月様の作品は長くないものでも考えさせられることが多く、各作品のつながりもあり非常に奥が深いです。
未プレイの作品もまだあるので今後プレイしていければと思います。

祟月様、そしてご覧の皆様、最後までお付き合い頂きまして本当にありがとうございました!









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